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新たな音楽を作り続けるサウンドムーヴメント“アルゴレイヴ”とは?(後編)

世界各所で勃興している音楽ムーヴメント“アルゴレイヴ”について、その第一人者Renick Bell(レニック・ベル)にインタビュー。
前編の基礎知識に続いては、世界の現状と日本のシーン、さらにはこれから始める人へのアドバイス、そしてアルゴレイヴと社会との繋がりなど、その真髄に迫る!

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世界でも唯一無二の日本のアルゴレイヴシーン

Renick Bell(レニック・ベル)による“アルゴレイヴ”演奏中の様子①

——アルゴレイヴは2012年にアレックス・マクリーンとニック・コリンズが生み出したとされていますが、そこからどう進化してきたのでしょう?

Renick Bell:イベントやライヴ本数、盛り上がりを見せている地域の数は年々増加し続けているね。歴史的にはイギリスで発祥し、瞬く間にメキシコシティにもシーンが誕生。その後は欧州やアジア、今やオーストラリアや南米にもある。ただ、アフリカではまだ確立されていないから、そこは今後の課題だと思ってる。とにかくアルゴレイヴは現在も拡大中でアーティストも増えた。認知度は高くなりつつあるね。そして、2019年には『Resident Advisor』でアルゴレイヴを特集したドキュメンタリー映画が制作されたんだ。これは、大きな到達点だと思うよ。それに、ロンドンやベルリン、東京では、以前はイベント会場がDIY的なスペースや小さなアートギャラリーだったけど、今はクラブで行なわれるようになった。これは大きな励みだよね

——順風満帆ということですね。

Renick Bell:難点もあって、新しい音楽を作ることができるけど、それが一部の人にとっては聴きづらいものであること。ただ、人間は新しいものに触れたとき、最初はそれが何かわからなくても、その後考えるようになる。それが文化の原理だ。つまり、思考が変われば趣向も変わる。だから、ドキュメンタリーが制作されたり、メインストリームのクラブでプレイできるようになったことは、アルゴレイヴの盛り上がりと同時に、エレクトロニックミュージック界の変化とも言えるね

——今、アルゴレイヴのシーンで活躍しているアーティストにはどんな方がいるのでしょう?

Renick Bell:面白いアーティストは大勢いるよ。まずは、やはりアレックス・マクリーン。彼は非常に重要なアルゴレイヴァーだね。提唱者であり、アルゴリズムから音楽を作る上で大切なツール『TidalCycles』の開発者だからさ。このツールはアルゴリズムをプレイする上で最も人気だ。その発明者であり、誰よりも使いこなせるだけに、彼のライヴは本当に面白いし、圧巻さ。また、アメリカにはKindohm (キングダム)ことMike Hodnick(マイク・ホドニック)というアーティストがいて、彼はこのツールでアレックスとは違う独自のスタイルを確立した。実にクオリティの高い音楽を制作しているから、チェックすべきだと思う。TidalCycles以外のツールでは『SuperCollider』があって、これを長年愛用しているアーティストにShelly Knotts(シェリー・ノッツ)という女性がいる。彼女もスキルが高く、面白い音楽を作っているね。あと、このツールはメキシコシティでアルゴレイヴシーンが急速に普及した大きな理由でもあるんだけど、今は『TidalCycles』のユーザーも多い。そこで傑出しているアーティストではCNDSDことMalitzin(Cortes)がいて、彼女はTidalCyclesの上級者だ

——ちなみにSuperColliderを開発したのは?

Renick Bell:アメリカ・テキサス州のJames McCartney(ジェイムズ・マッカートニー)が90年代前半に最初のバージョンを開発した。TidalCyclesの登場よりもずっと前になるんだけど、より高度で複雑なんだ。TidalCyclesは初心者でも1日でマスターし、自分の音楽が作れるという利点があるね

——では、日本のシーンの現状は?

Renick Bell:日本のパフォーマーの興味深いところは、既存のツールを発展させ、各自のソフトウェアに繋げていること。おそらくこれはどの国よりも日本で最もよく見られることだと思う。例えば、Moxus(モクサス)はTidalCyclesにSuperColliderをあわせ、独自で開発したツールを使い、ユニークなサウンドを生み出している。それから、Naoki Nomotoはソフトウェアといくつかのコードを開発し、TidalCyclesとともにモジュールシンセサーザーを操作し面白い音楽を制作しているね。他にもTidalCyclesを使うAi.stepというユニットがいて、彼らは事前に書き込んだプログラムによって大半のコーディングが自動的に変化していくものを使う、これまたユニークなスタイルだ。日本にはアルゴレイヴを演奏する優秀なプログラマーがたくさんいるから、結果として唯一無二のシーンが生まれているね

——日本にも多くのアーティストがいるんですね。

Renick Bell:あとは、田所淳先生も忘れてはいけない。彼もTidalCyclesに独自のソフトウェアを加え、とてもビジュアル的なライヴをする。それはコーディングだけでなく、音楽面の状況も把握できるんだ。まだ話していなかったけど、『Sonic Pi』というメジャーなツールがあり、彼は日本の大学やワークショップでそれとTidalCyclesの使用法を教えている重要人物だ

アルゴレイヴを新たに始める人へのアドバイス

Renick Bell(レニック・ベル)による“アルゴレイヴ”演奏中の様子②

——アルゴレイヴを始めるにはどうすればいいですか?

Renick Bell:必要なのはインターネットに繋いだコンピューターだけさ。あとは、Sonic PiかTidalCyclesの指導ビデオを見れば始められる。または、ワークショップへの参加が最も簡単な方法かな。ソフトウェアが新しいこともあり、インストールのプロセスが若干難しいと感じる人がいるけど、ワークショップに行けばそれも教えてくれる

——ソフトウェアはどこでも手に入るのですか?

Renick Bell:アルゴレイヴのコミュニティはソフトウェアを含め、オープンであることに重点を置いているから、ほとんどのソフトウェアはオープンソースなんだ。そこには2つの理由があり、1つはソースコードが見られること。中身を見たくても見ることができないWindowsやAbleton Liveと違い、アルゴレイヴのソフトウェアは全てを見ることも変えることもできる。もう1つは、ソフトウェアが全て無料ということ。これは実用的で大きな利点だね。だから、アルゴレイヴを始めるのはとても簡単さ。

——アルゴレイヴをプレイする上で重要なことは?

Renick Bell:たくさんのことを考えなければいけないけど、基本的に大事なのはバグやエラーを出さないよう注意することだ。でないとシステムがクラッシュし、音楽が止まってしまうからね。実際そういったことはよく起きる。でも、オーディエンス側も慣れたもので、音楽が止まったらみんな拍手でパフォーマーを応援する。あと、個人的に興味があるのは素早く変化していくような音楽の制作。それを実現するために僕は“プログラマー・タイム”と“オーディエンス・タイム”間の時差を見直してる。このシーンの課題を挙げるとしたら、プログラマーとオーディエンスで経過する時間に対して感覚の差異があることなんだ。プログラマーが難しいコーディングを行なうと長時間かかることがある。でも、ライヴ中はその間も音楽は流れ続け、オーディエンスも聴いているわけだから、そこにズレが生じることがあるんだ。音楽が変わらないとオーディエンスは興味がそがれてしまうから、僕はいかに音楽を素早く変え続けていくかを考えている

——始めるのは簡単だけど、実際にやってみるとやはり奥が深そうですね……。

Renick Bell:それから、アルゴレイヴだからこそ僕はグルーヴ感を模索してる。ダンサブルな音楽にしたいからね。アルゴレイヴはこれまでに聴いたことのないような新しいリズムを作ることができ、それはもしかしたら踊りづらいものかもしれない。その中で僕は踊れるグルーヴ感を常に追求しているんだ。フレッシュでありながら、誰もが踊り出すような、うまくバランスのとれたものをね

社会とも大きく関係するアルゴレイヴ、その重要性とは?

Renick Bell(レニック・ベル)による“アルゴレイヴ”演奏中の様子②

——今後はどのような展開を考えていますか?

Renick Bell:僕は独自のソフトウェアを持っている。アルゴレイヴを始めたとき、アレックスを見て自分のアルゴリズミックシステムを基盤としたSuperColliderを作ったんだ。でも、その後にまた新しいシステムを試したくなった。TidalCyclesの開発に取り組むアレックスを見て、僕は自分のソフトウェアを開発し始めたのさ。でも、僕は今、長いこと一般公開用のソフトウェアを作っていないから、今はそれを支援してくれる機関を探してるところ。新バージョンを開発し、みんなと共有したいと思ってる。そうすることで、より多くの人たちがTidalCyclesやSuperColliderとあわせて使えるからね。僕の今の目標は、自分が手掛けたソフトウェア『Conductive』の研究開発を支援してくれる機関探しだ

——Conductive自体は今も公開しているんですか?

Renick Bell:古いバージョンだけどね。しかも使用法の解説がないから、今は誰かが使うのは不可能に近い。マニュアルを作るにも時間がかかるからさ。2020年にはそれが実現できるよう願ってる

——最後にアルゴレイヴを今後始めてみたい人に向け、メッセージをお願いします。

Renick Bell:伝えたいことは2つ。アルゴレイヴは練習あるのみ。何でもそうだけど、新しいスキルを身につけるためには時間を要する。時間と努力、日頃の修練が必要。ただ、そうすれば確実にパフォーマンスできるだけのスキルを身につけることは可能だよ。そして、自分の作品を定期的に披露することも大事だね。例え完全に準備ができていなくても、まずはイベントに出演することで自分をより練習に追い込むことができると思うし。そこではミスしたっていいんだ。みんな間違えるし、クラッシュもする。だけど、オーディエンスは温かく見守ってくれるから、恥ずかしがらずにイベントに参加してパフォーマンスすることだね。そうやってみんなで一緒にカルチャーを発展させてほしい。もう1つはオープンであること。アルゴリズムは僕らの生活の中で重要性を増している。それを通して他者と交流し、ビジネスをしているんだ。それだけにアルゴリズムを評価できるスキルがないと、僕らは社会を制御できなくなってしまう。しかもそれはオープンでないと意味がなく、そうでないと多くの危険がある。それこそお金を失うこともあれば、自由やカルチャーを失う危険性さえもね。人々は企業や政府が使用しているアルゴリズムの中を見せてもらえるよう要求することが重要であり、僕らはそれを理解し、推論するスキルを身につけるべきなんだ。でないと社会は危険な方向へと進んでしまうよ

——最初にアルゴレイヴは“社会運動”と話していましたが、そこが接点なんですね。

Renick Bell:アルゴレイヴを通し、僕らは社会が間違った道に進まないようにするレジスタンスであることを奨励してる。みんなアルゴリズムを理解し、社会でもそれをオープンにすることを勧めたい

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