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Calvin Harris別名義Love Regeneratorから紐解くハウス・リバイバル!

TJOがCalvin Harris(カルヴィン・ハリス)の別名義Love Regenerator(ラヴ・リジェネレイター)の新曲をもとに昨今のハウス・リバイバルを掘り下げる。

ここ数年のハウス・ミュージックのリバイバルを紹介

TJOがCalvin Harris(カルヴィン・ハリス)の別名義Love Regenerator(ラヴ・リジェネレイター)の新曲をもとに昨今のハウス・リバイバルを掘り下げる。

カルヴィン・ハリスからラヴ・リジェネレイターへ……2020年に入り、テン年代を代表するスーパープロデューサーが新たに立ち上げた別名義とともにここ数年のハウス・ミュージックのリバイバルを紹介していきたい。

◆Calvin HarrisからLove Regeneratorへ

まずはラヴ・リジェネレイターについて紹介しよう。カルヴィン・ハリスは2007年のデビュー以降、様々な音楽スタイルを用いながらもその巧みなポップ・センスで2012年以降計8曲のシングルが全英トップ5入りを果たし、あのマイケル・ジャクソンの7曲を超える当時の新記録を樹立。そして、米経済誌『フォーブス』誌による「世界で最も稼ぐDJ」ランキングでは2013年から2018年まで6年連続1位に輝き、シーンを席巻。同時に、当時のEDMシーンをより大きなムーヴメントに押し上げたキッカケを作った1人としてトップ・プロデューサーの座を欲しいままにした。

そんな彼が誰も気にせず純粋に音楽を楽しみ、自分にとって気持ち良いと思える音楽を作り始めた22年前の方法を再発見したかったという初期衝動に立ち返ったプロジェクトがラヴ・リジェネレイターだ。ルーツであるテクノ、ハウス、90’sレイヴを軸に、近年のハウス・リバイバルとリンクする作品を今年初頭からほぼ月一ペースで精力的に発表。当時のレイヴを感じさせるピアノリフに、後のドラムンベース、ジャングルの基礎とされるブレイクビーツ、そして要となるTB-303を基調としたアシッド・ベース。それらに90’s当時のサンプリング・センスをレイヤーしつつもアップデートした作品は、メジャーのみならずアンダーグランドシーンからも大いに支持された。

以前PARTY CHANNELで寄稿した話題の新曲のサンプリングネタの記事でもラヴ・リジェネレイターの当時へのリスペクトを感じさせるサンプリングについて書いたので合わせてチェックして欲しい。

▽あわせて読みたい!“ダンスミュージックファン必見! TJOが話題の新曲のサンプリングネタを一挙紹介!”の記事はコチラ

 

◆新曲“Live Without Your Love”の話題性

そして、この名義では初のヴォーカル作品となる“Live Without Your Love”をリリースした。ズッシリとしたベースラインのリフレインに、時折アクセントとして入るピアノリフに浮遊感あるシンセが心地良さと中毒性を同時に感じさせ、後半にはお馴染みとなったアシッド・ベースが差し込まれ、さらにグルーヴを増幅させる、シンプルながらも一度聴いただけで耳に残るトラックとなっている。さすがはカルヴィン・ハリス、耳に残るフックを作る手腕はこういったジャンルでもしっかりと発揮されている。

そして楽曲の浮遊感をより演出するのが何と言ってもSteve Lacy(スティーヴ・レイシー)による歌声だろう。
スティーヴ・レイシーはR&BバンドThe Internet(ジ・インターネット)のメンバーとしてギター・ヴォーカルを担当。彼らは2015年のアルバム「Ego Death」がグラミー賞にノミネート、Tyler, The Creator(タイラー・ザ・クリエイター)が結成したヒップホップコレクティブOdd Futureに所属し、ヴォーカルを務めるSydは多くのアーティストへの客演としても知られる。2016年に「フジロック」で初来日、以降の単独公演もソールドアウトさせるなど、ここ日本でも人気のバンドだ。
また、各メンバーのソロ活動も盛んでスティーヴ・レイシーはKendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)の歴史的傑作「DAMN」において“Pride”をプロデュースし、このアルバムはグラミー賞を受賞。驚くべきはこの楽曲をプロデュースした当時は10代で、全ての楽曲をiPhoneで制作している事も大きな話題になった。2019年にはこれまたグラミー賞にノミネートされたソロ・アルバム「Apollo XXI」を発表し、プロデュース能力だけでなく見事な歌声も披露、その類稀な才能を世に示したばかり。

そんな2人の天才によるコラボレーション、スティーヴ・レイシーのレイドバックした歌声がラヴ・リジェネレイターのトラックに乗る事でより浮遊感を増し、さらにはサイケデリックな雰囲気も引き出し、グルーヴィーでセクシーな往年のハウス・クラシックを想起させている。

しかも、今回はUKの名門ハウス・レーベルDefectedからのリリースという事でも話題を集めている。オーナーSimon Dunmore(サイモン・ダンモア)を発起人とし1999年からスタートしたこのレーベルはハウス・ミュージックへの愛を信念に数々のヒット曲やパーティーオーガナイズ、新鋭アーティストの発掘など、およそ20年間におけるハウス・シーンに大きく貢献した名門の1つである。
そんなレーベルからカルヴィン・ハリスが自身のハウスへの想いを反映させた楽曲をリリースするのは実に感慨深い。実際、このリリースに彼自身特別な思いがあったそうで、デビュー以前にデモテープを送り始めた15歳の頃にDefectedにもデモを送り、契約には至らなかったものの「今回はこのデモを返すけど、自分を信じて。僕たちはいつか必ず何か一緒に作ることになるだろう」という手紙をもらい、以降サイモン・ダンモアと交流を深めていった。ある日カルヴィンがこの楽曲のデモ音源をインスタグラムに投稿すると「この楽曲をぜひDefected Recordsからリリースしたい」とオファーをもらって実現。約20年という時を経てカルヴィンの夢が叶い、この楽曲は4月のロックダウン時に行われたDefectedのオンライン・フェスティバルで初披露されることとなった。

 

◆Love Regeneratorのインスパイア源

カルヴィン・ハリスはこのプロジェクト始動の際のインタビューで影響を受けたアーティストを幾つかあげていたので、ここでは彼のサウンドを紐解くヒントとしてそれらを紹介していこう。

・Virtual Self (Porter Robinson)

日本でも人気のPorter Robinson(ポーター・ロビンソン)が影響を受けてきたオールドスクールなトランスや90’sレイヴ・サウンドを主軸とした別名義。2017年にリリースされた「Ghost Voices」は、激しい抑揚をおさえながらもトランスの持つ高揚感をポーターの世界観に落とし込んだ傑作として2019年に行われたグラミー賞で「ベスト・ダンス・レコーディング賞」にノミネート。カルヴィン自身もSNSで賛辞を送っていた。この自身のルーツに立ち返るというインスピレーションの大きな要になったのは間違いないだろう。

・Paul Woolford (Special Request)

2000年代から活躍するUKのプロデューサー。テクノ〜ハウスを自由に往来するスタイルは、メジャー〜アンダーグラウンド問わず厚い支持を獲得している。特にここ数年はPaul Woolford(ポール・ウールフォード)名義で90’sリバイバルを感じさせるピアノハウスを、そしてSpecial Request(スペシャル・リクエスト)名義で、よりレイヴ・サウンドに寄った実験的なサウンドを展開。最近ではハウスに傾倒し、専門のレーベルHigher Groundを立ち上げたDiplo(ディプロ)ともコラボレーションを果たした。

・Dance System (L-Vis 1990)

こちらはUKブリストル発のプロデューサー。Bok Bok(ボク・ボク)と共に主宰するレーベルNight Slugsでグライムやベースミュージックの進化系を提示してきたが、ここ数年はDance System(ダンス・システム)名義でハウス・ミュージックの礎とされるシカゴハウス直系の初期衝動に溢れたグルーヴを多く発表し、カルヴィン自身ラジオなどでも好きなことを公言している。

・Skream

ダブステップシーン発展のパイオニアの1人として歴史を築き、近年はテクノ〜ハウスを軸にしながらも多大なる才能を発揮しているSkream(スクリーム)。主催するレーベルOf Unsound Mindでは自身の作品はもちろん、新人発掘にも余念がない。90’sレイヴを想起させるサウンド使いの上記の楽曲を筆頭にカルヴィンが自身のプレイリストで選曲し影響を受けているのは明白だろう。

・Eli Brown

UKブリストル出身で新世代ハウス・プロデューサーの1人としてシーンを牽引する。デビュー期に前述のスクリーム主宰Of Unsound Mindからのリリースで注目を集め、今やシーンを語るには欠かせない存在として注目を集めるだけでなく、ラヴ・リジェネレイタープロジェクト唯一のコラボネーターとしてカルヴィンから熱烈な信頼を獲得している。

 

◆Defected Recordsから見るシーンへの影響

今作のリリース元であるレーベルDefected Recordsは、最近はディスコ回帰のムーヴメントを先取りした往年のディスコと、それにリンクしたソウルフルなハウスを軸としたラインGlitterboxを、さらにはよりテックハウスやテクノなサウンドを展開するサブレーベルDFTDを開設するなど、時代に敏感に応じた動きで老舗レーベルの衰えなど微塵も感じさせない貫禄を見せているが、近年のハウス・リバイバルにも大きな貢献を果たしている。

中でも大きな起爆剤となった代表曲といえるのがCamelPhat(キャメル・ファット)が2017年にリリースした“Cola”だ。UKのDave WhelanとMichael Di Scalaによるキャメル・ファットと、Rudimental(ルディメンタル)やGorgon City(ゴーゴン・シティ)との共作で活躍するElderbrookとのコラボレーションは世界的にヒットし、2018年のグラミー賞にまでノミネート。これを機に数々のヒット曲を飛ばし続けたキャメル・ファットは、人気レーベルSolaレーベルを主催するSolardo(ソラルド)や同じく“Losing It”がシーンを飛び越えるヒットとグラミー賞ノミネートを果たしたFisher(フィッシャー)、そのフィッシャーのプロデューサーとしても噂されるChris Lake(クリス・レイク)と共に新世代ハウスを象徴するプロデューサーとしてリバイバルの波を担った。

またイタリア出身でSDJM名義で2018年にBackstreet Boys(バックストリート・ボーイズ)の“I Want It That Way”をカヴァーしヒットを記録したメンバーのSimon De JanoとMattia Vitaleに加え、“Sex On The Beach”のポップス・ヒットで知られるSpankers(スパンカーズ)の元メンバーLuca de GregorioによるユニットMEDUZA(メデューサ)は2019年のデビュー作にしてグラミーノミネート大ヒット曲“Piece of Your Heart feat. Goodboys”を受けての新曲“Born To Love feat. SHELLS”をDefetedからリリースするなど、未だに現役レーベルとしてシーンに影響力を与えている。

 

◆ヒップホップ・シーンに見るハウス回帰

このリバイバルは何も限定されたジャンルにおいてのものはない。最近、特に大きな話題になったのはTy Dolla $ign(タイ・ダラー・サイン)の新曲。客演にKanye West(カニエ・ウエスト)、FKA twigs(FKAツイッグス)さらにプロデュースにSkrillex(スクリレックス)を迎え、そのラインナップだけでも充分な話題性だが、イントロでハウス・クラシックのRalphi Rosario(ラルフィ・ロザリオ)“You Used to Hold Me”が、カニエのラップパートの前にUltra Nate(ウルトラ・ナテ)“Free”の声ネタが使われている。この楽曲の系譜として語られるのがカニエ・ウエストの2016年に発表した“Fade”。シカゴハウスの伝説的アーティストMr. Fingers(ミスター・フィンガーズ)の“Mystery of Love”のベースライン、またMasters At Work(マスターズ・アット・ワーク)のメンバーとして知られるLouie Vega(ルイ・ヴェガ)がHardrive名義で残した今もなおサンプリングやカヴァーが尽きない初期の名曲“Deep Inside”、Barbara Tucker(バーバラ・タッカー)“I Get Lifted”の声ネタが使われ当時ハウスシーンからも大きな反響を得た。
カニエといえば18年の“I Love It”ではAlexander O’Neal(アレクサンダー・オニール)“What Is This Thing Called Love”のDavid Morales(デヴィッド・モラレス)リミックスのベースラインを無断で使用したとしてモラレス本人から抗議を受けたのも記憶に新しい。

他にもFrench Montana(フレンチ・モンタナ)の2019年作“Wiggle It”では90’sハウス・ヒットNightcrawlers(ナイトクローラーズ)“Push The Feeling On”が、2014年のNicki Minaj(ニッキー・ミナージュ)がDrake(ドレイク)とLil Wayne(リル・ウェイン)をフィーチャーした“Truffle Butter”でMaya Jane Coles(マヤ・ジェーン・コールズ)の2010年代のハウスシーンを代表する1曲“What They Say”をサンプリング。ドレイクもまた名曲“Passionfruit”でデトロイト・ハウスの巨匠Moodymann(ムーディーマン)のライヴMCの声を曲中に使用、カニエと共にその審美眼を高く評価され、ヒップホップとハウスの密接な関係はより濃厚なものとなった。

今回の“Live Without Your Love”はスティーヴ・レイシーと共にBilal(ビラル)やRobert Glasper(ロバート・グラスパー)とも交流を持つR&BシンガーJesse Boykins III(ジェシー・ボイキンス三世)もライティングに参加しており、このコラボレーションがヒップホップやR&B的な観点からもハウスの歴史を再現する作品として自然な成り行きで派生したものだとも言えるだろう。

カルヴィン・ハリスはEDMの立役者としてのパブリック・イメージが強いが、近年のハウス作品の流れ以前にも、2015年のDisciples(ディサイプルズ)との“How Deep Is Your Love”、16年のRihanna(リアーナ)を招いた“This Is What You Came For”を大ヒットさせ、早い段階からハウスへのリスペクトを体現してきた。そして今年に入ってラヴ・リジェネレイターの新曲で温故知新を体現。ハウス・ミュージックの過去と未来を改めて繋いでみせた。私TJOのSpotifyでやっているプレイリスト「TJO Crates」ではこの記事で紹介した楽曲と、この新曲との親和性を感じる楽曲を追加したのでぜひ記事と一緒にその世界観を楽しんで欲しい。

<TJO Crates>

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